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スライディング・ヘディングシュート2


3000坪の冒険と、時々音楽すごく映画。たまにサッカー
by frat358
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キャリーはうんこを食べる38周年

キャリーはうんこを食べる38周年_c0027929_13301785.jpg

「キャリー」特別編

==========超絶ネタバレ注意===========

食べ物にも困るほど貧乏だった若い頃の
スティーブン・キングは、新聞社などに
自分の小説を幾度も売り込みながら、
全く良い返事を貰えない人生でした。
自分の才能にも自信を持てなくなっていたのか、
ある日、彼は「キャリー」という作品の
執筆が終わったのに、これはダメだなと
キャリーの原稿をゴミ箱へ捨ててしまいます。
しかし極貧でも付いてきてくれる奥さんが
ゴミ箱に捨てられた「キャリー」の原稿を読み、
キングに言いました。
「なぜ捨てたの?あなたの作品で一番面白いよ」
キングは妻の言葉が心に残って、
キャリーの原稿を売り込みに出かけます。
そして貧乏作家スティーブン・キングの人生は
劇的に変わっていきます。

キャリーはうんこを食べる38周年_c0027929_1330209.jpg

しっかりとは憶えてないですけど、
恐らく「キャリー」が人生で初めて読んだ
小説です。小学生の頃でした。
読書を強く勧める担任先生で、
周りが子供向けの文庫本を沢山手に取る中で、
私だけが小説に手を出した。
それは特に強い理由があった訳ではなく、
カッコつけに近い動機だったと思う。
なぜキャリーを選んだのか、という意味では
謎めいた表紙と、小説にしては凄く薄かった事と
「スタンドバイミー」という映画で
スティーブン・キングを知った後だったから、
知らない作家よりは親近感を持ったのだと思う。
ページをめくって、物語が始まると
最初に、こう書いてあった。

キャリーはうんこを食べる。

それはキャリーの机に書かれた落書きで、
どれだけ悲惨なイジメを受けているかが
たったの一行で表現されていた。
私は自分が衝撃をうけた経験をすると
周囲に話すのが大好きな子だったけど、
この文章の衝撃は友人達に話さなかった。
あまりにもショックで絶句したから。
キャリーは凄惨なイジメを受けた果てに、
物を動かす能力を使って学校を破壊し、
生徒達を殺し、街を破壊してしまいます。
そこまではシッカリ憶えていたのですが
人間の記憶っていうのは2つの事が
都合よく繋がって、1つの事実として
勘違いしたまま記憶する事もあるようで、
小説のエンディングと
映画版のエンディングが私の頭の中では
合体していました。でもそれが可能だったのは
映画版が非常によく、キャリーの世界を
表現できていたから、かもしれません。
小説版は終盤に近づくほど視点が客観的になります。
映画版は最後までキャリーの苦しみを追い続ける。
そして映画版のラストはスティーブン・キングが
「私もラストはこうすれば良かった」と話したほど
衝撃的になっていますが、それは後で書くとして。



映画版のクライマックスシーン。
キャリーと同じクラスだったスーは、
キャリーへの集団イジメに参加した事を恥じて、
自分にとって一番大切な人と
一番楽しみにしていた時間をキャリーに譲る事で
自身への罰にしようと考えます。
それは具体的に何かというと、
自分の彼氏とキャリーを1日だけカップルにして、
大事なダンスパーティーに参加させる事でした。
しかし、この話を聞きつけたイジメっ子達は、
ベストカップル賞にキャリーとスーの彼氏が
選ばれるように不正投票を画策して、
優勝セレモニーでキャリーの頭に
バケツに入った豚の血を浴びせます。
途中で狙いに気ずいたスーは止めに入りますが
キャリーを守っていた担任先生は
スーが嫉妬して嫌がらせに来たと勘違いして
スーを会場から追い出してしまう。
小説版では先生は死にませんけど
映画版では死んじゃうどころか
身体が真っ二つになって死ぬ先生;
先生は笑っていないけど、キャリーには
笑っているように見えた、という演出で
先生も笑っているそうです(監督談)
赤い帽子を被った子はイジメの主要メンバーで、
放水の水圧で気絶するんですけど
倒れるシーンはスタントマンが受けたものの、
顔がアップになるシーンはスタントを使えないので
自分で放水を受けています。放水のパワーで
一瞬にして鼓膜が破れたそうです;
パニックにならず倒れたままなのは、さすが。
キャリーを演じているシシー・スペイセクも
炎が4メートルの近さに在る中で
全く熱がらずに不動明王のような演技を貫きました。
怨みで暴れているというよりは、
神話に出てくる天罰みたいな映像を目指したそうです。
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キャリーは大暴れした後、家に帰る。
身体中にくっついた豚の血液は、特殊な血のりを
合成で作っていて、乾いてくると毛糸のように
ゴワゴワしながら皮膚が固まってしまう液体だった。
なのでキャリーは家に帰る頃の映像になると、
固まる血のりで動けなくなって
マネキン人形のようにカクカクしながら歩く。
まさに「結果オーライ」ってやつで
キャリーの感情が抜け落ちたように見えて
不思議な映像になっている。
このシーンが中年になってから見ると
凄く印象的に見えた。



2013年に「キャリー」はリメイクされて、
それなりに話題になりました。
クライマックスのキャリーが暴れるシーンは
豊富な予算と計算されたアイデアが活きてますけど
これは・・・自分にとってはキャリーじゃないです。
リメイクされたキャリーは学生達を殺しながら
笑ってるでしょ?オリジナルのキャリーが
暴れてるシーンも長いですけど、一度も笑ってない。
笑うキャリーと笑わないキャリー。
これは自分にとって物凄い「違い」です。
別の映画と言っていいほど違う。
オリジナルのキャリーを破壊に向かわせたのは
絶望と怒りです。だからこそ、暴れるキャリーが
まるで愚かな人間に天罰を与える神のように見える。
でもリメイクされたキャリーは
笑みを見せながら怯える人達をいたぶって殺している。
つまりリメイク版は、いじめられっ子が
いじめっ子に変わったかのように描写している。
まあ笑いながら怒る人っていうのも時々居るけどさ、
オリジナルのキャリーは体育館を燃やしても
街を破壊しても、心はイジメっ子と同じような
外道の精神に向かわなかったと思ってるので、
笑いながらイジメっ子を殺すキャリーというのは
全く違うというか、キャリーという作品に対して
無礼なんじゃないかとさえ、自分は思います。



話は1976年のオリジナル版に戻って、
当時、大騒ぎになったラストシーンを。
これは歩いてるシーンを後ろ歩きで撮影して、
逆回転で再生させています。
それによって幻想的な映像に仕上げていますが
30秒あたりで赤い車がバックして写ってるのが
そのまま残ってたりします;逆回転なので逆走。
会場を追い出された事で、ただ1人生き残ったスー。
自分のアイデアがキャリーや仲間達を
破滅させてしまったとも言えるし、
涙を見せながら献花するのですが・・・そう。
キャリーが墓場から出てきます;
これは単に観衆を驚かせようという
アイデアだったのかもしれませんけど、
イジメられていたほうは決して許さない、という
怨みの強さを感じさせるし、酷い目に遭ったスーは
一生消えない傷を心に負った。という風にも見えます。
スーとスーのお母さんは本当に親子で、
おかげで自然な演技が出来たとも言えるんですけど
錯乱状態になった我が娘を見たことは無かったので
驚いてスーの本名を叫んでしまったそうです;
一回目の上映を見に行ったスーのお母さんは
本名を叫んだ事をマイクが拾ってるかどうかが
気になってたそうなんですけど、
墓場からキャリーが出てきた瞬間に
映画館が悲鳴の嵐になったらしく(笑)
誰も本名かどうかなんて気にしなかったそうです。

墓場から飛び出す腕は、キャリー本人の腕です。
人が入れる大きさの木箱を作って、その上に
黒く塗った軽石を敷き詰めて、花束を置く絶好の瞬間に
「今だ!」とスタッフが合図して腕を掴んだそうな。
こうして世界中を恐怖のズンドコへ叩き落したキャリーは
スタッフロールを迎えて終わるのでした。
「キャリー」は、当時絶対にあり得ないと言われた
ホラー映画でアカデミー賞にノミネート、という
偉業を成し遂げます。受賞は無理でしたけど、
ホラーがアカデミーに呼ばれたというだけで前代未聞でした。

「キャリー」に強い思い入れを持っているのは
アメリカだと、それほど珍しい事じゃないようです。
映画が大ヒットしたあと舞台版のキャリーが
発表されたんですけど、役者組合の要望で
イギリス人とアメリカ人の混成舞台となり、
監督もイギリス人でキャリーという作品の背景を
全く分かっていない人だった。初演が終わって
幕が閉じた瞬間に大ブーイングが起きたそうです。
それでも役者達は勇気を出してブーイングの中で
再び舞台に現れて、礼をした。
すると突然、観客達が罵声を止めて拍手喝采を初めた。
つまり。役者の頑張りは認めるし称えるけど、
観客が抱いている作品への愛情には
脚本や演出が、程遠いぞって事なんだろうなと;
私がリメイクされたキャリーに怒りを感じたように、
作品への愛情を汚されたと感じたら
ブーーー!!!って容赦なく叫ぶ。アメリカ恐るべし。
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長く思い入れを書いてきましたが、
「キャリー」という作品は、若かった頃の
スティーブン・キングが描いた荒削りな短編です。
人物の内面描写が少ないのも特徴で、
原作で異様なくらい長く描かれているのは
キャリーを取り巻く「環境」や、
キャリーを傷つけた豚の血を使ったイジメの
「準備」などが読者の頭へ詳細に入ってくる。
これは、例えるなら骨格が完全に作られているのに
内部は空洞になっているような技法だと
個人的には思っています。
中身が空洞の小説なんて普通はダメなんですけど、
読んでる人それぞれが、空洞の部分を
自分の感情で埋めていくという
妙な現象が起きた作品だと思う。
それを可能にしたのが「キャリーはうんこを食べる」
という文章に代表されるキングの描写力かな、と。

リメイクされたキャリーは笑ってるからダメだとか、
演技者は頑張ったけど脚本が許せんとか、
キャリーの破壊活動を「もっとやれ」と思ったとか、
多種多様に思い入れを持つのは、作品の空洞部分を
見てる人が自分の思いで埋めるからだと思う。
「細かいメッセージは全然入れてませんよ」
というのが恐らく正解。でも空洞にした事が
キャリーを名作にしたんじゃないかなーと
今になると思います。
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空洞的な表現は映画の中でも最後まで徹底していて、
血まみれのキャリーが家に帰り、母に会うと
酷い目に遭ったことを細かく言わない。
「mama...holdme.holdme」という言葉を
繰り返すだけ。これまた見てる人が
色んな気持ちを抱けるようになっています。
映画版だとキャリーの母親に関してだけは
細かく心の闇を告白するようになっていて、
異質な存在感が際立って見える。
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最後に。
小学生の時、読書を薦めた先生から年賀状が来た。
こう書かれていた。「あなたが大好きなキャリーを読みました。
スティーブン・キングは凄い描写力を持った作家ですね」
当時の私には、よく分からない感想だったけど
きっと先生も私と同じように、「キャリーはうんこを食べる」
という文章に驚いたのだと思う。

以上、空前の長文でお届けした
私とキャリーの思い出でした。
by frat358 | 2014-09-25 13:36 | 超ネタバレ映画感想
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